暗示効果を利用する「自律訓練法」

当院でストレスの克服のために重視しているのが、「自律訓練法」です。

これは、暗示をかけることで軽い催眠状態に入り、自律神経をコントロールするもので、リラックスしてストレスを克服できる方法としてよく知られています。

緊張感や不安感の緩和に役立ち、また不眠症の解消にも効果を発揮してくれます。

 

自律神経というのは、自分の意思でコントロールできない神経のことで、緊張したら勝手に心拍数が上がってしまったり便秘になったりするのは、自律神経の働きによるものです。

「自律訓練法」は、こうした本来なら自分では制御できない自律神経の働きを暗示効果でコントロールするために、ドイツの精神科医、ヨハネス・ハインリヒ・シュルツが完成させた手法です。

●背景公式 「気持ちが落ち着いている」

これがこの訓練法の基本となります。

軽く目を閉じて、「落ち着いている、落ち着いている」と心の中で繰り返し唱えます。

この「繰り返し唱える」ということが、暗示効果をもたらします。

 

●第1公式 手足の重感。「両手両足から力が抜ける」

まず右手から、「右手の力が抜ける、抜ける」と唱えていきます。

すると右手がだんだん重くなってくる。

これが力の抜けた状態です。

 

次に左手、そして右足、左足と順に行っていきます。

はじめは少し時間がかかりますが、重さを感じるまでやってください。

 

●第2公式 手足の温感。「両手両足が温かい」

「手が温かくなってくる」と唱えていると、暗示によって血管が拡張して、体の深部を回っていた温かい血液が、体の表面や手足にまで流れてくるので、温度が上がります。

 

●第3公式「心臓が静かに鼓動を打っている」

●第4公式「呼吸が楽にできる」

●第5公式「お腹が温かい」

●第6公式「額が涼しくて気持ちいい」

 

*第3公式以下も同じ仕組みですが、これらは自分で勝手にはやらないでください。というのは、心臓にトラブルを持っている人は、第3公式である種の異常をきたす可能性がありますし、呼吸器に疾患がある人には、第4公式は危険です。これらは、医師など専門家の指導のもとに行うべきです。

 

●消去動作

最後に必ず消去動作を行ないます。

 

この「自律訓練法」は、根を詰めて勉強した後などに行うと、特に効果的です。 

勉強に集中していると交感神経が優位になる、つまり高揚した状態になるわけです。

それが続くと、脳も身体もストレスを受けて疲弊してしまいます。

ですから、長く受験勉強を続けるには、休憩時間に副交感神経を優位にする、つまりリラックスしてストレスを軽減することが不可欠なのです。

これを短い時間に行うには、「自律訓練法」は持ってこいです。

 

ただし、「自律訓練法」を効果的に行うには、ちょっとしたコツがあります。

「力を抜かなきゃ、抜かなきゃ」と思ってもなかなか抜けずに焦ってしまう人が多いのですが、焦れば焦るほど力は抜けなくなります。

 

「よし、力を抜いてやるぞ」と思ってしまうと、力んでリラックスできない。

それよりも、無心になって「力が抜ける、抜ける」とひたすら唱えるのです。

注意は集中するけれども、その結果には捉われない。

無理やりリラックスしようと焦らずに、結果としてリラックスできるようにイメージする。

それが「自律訓練法」によって不安や緊張を和らげるコツです。

 

ちなみに患者さんの中には、私に気をつかって、「先生、力が抜けてきました」と言ってくれるのですが、筋肉の張り具合を見れば、本当は力が抜けていないことが一目で分かります。

それに対し、以前は、「まだ筋肉は、ゆるんでいないじゃないですか」などと大人気ないことを言っていましたが、そうすると精神的に患者さんを余計に追い詰めてしまうだけです。

 

そこで、今では、「力が抜けてきて良かったですね」と声をかけることにしています。

そうすると、「力が抜けないと医者ががっかりする」といったプレッシャーから解放されるので、本当に力が抜けてくるのです。

人間の心の機微の奥深さを改めて感じさせられます。

吉田隆嘉

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