「勉強嫌いの受験生のスランプ」

光文社新書「受験うつ」第5章より


・・・・ご説明してきたスランプ脱出法は、スランプから早期に脱する手段としてどなたにも有効ですが、

私がカウンセリングの経験を通して感じたのは、

 

①勉強嫌いの受験生、

②プライドが高い受験生、

③幼児期から過保護に育てられてきた受験生

 

以上の方には、特に顕著な効果が上がりやすいのということです。

 

その具体例を手短にご紹介しておきましょう。

 

 

高校3年生のF子さんは、勉強嫌い・プライドが高い・過保護に育てられたという以上の3つの条件をすべて満たしている受験生でした。

 

勉強が嫌いだとはいえ、大学には進学したいということで、私立文系を目指してムリムリ受験勉強を始めました。

 

夏から秋にかけてはF子さんなりのペースで勉強をこなし、少しずつ学力も上がってきたのですが、12月になって突然、重度のスランプに陥りました。

 

勉強をしようと思っても、全くと言っていいほど勉強ができなくなったのです。

 

 

私が診察したところ、うつ病などではなく、単に自己効力感が低下しているだけだとわかったため、さっそく、スランプ脱出法を始めてもらいました。

 

当初、F子さんは「こんなことでスランプから脱することができるのですか?」と、かなり懐疑的だったのですが、

毎日、続けてもらったところ、早くも3日目には完全に元通りの状態に回復しました。

 

 

F子さんも含め、上記の条件に合致する方にこの方法が特に大きな効果を持つのは、スランプが心理的なマジックによって起こっている場合が多いためです。

 

脳内で起こっている現象を正確に表現すると、スランプに陥っているというより、勉強をサボるためにわざとスランプにしているというのが妥当なのです。

 

 

F子さんは塾の受験指導の面接で、担当の先生から「日東駒専」ならなんとか合格できるが「マーチ」は無理だと告げられました。

 

これがF子さんの心の歯車を狂わせ、スランプに陥ってしまったのです。

 

 

関東地方では、受験生の間で私立大学は偏差値が高い順番に「早慶上智」・「マーチ」・「日東駒専」というグループに分けられています。

 

「早慶上智」は、その名の通り早稲田・慶応・上智で、偏差値が最も高い私立大学です。

 

「マーチ」は馴染みのない方も多いと思いますが、明治(M)・青山(A)・立教(R)・中央(C)・法政(H)の頭文字をとってMARCHで、「早慶上智」に次ぐ偏差値を誇っています。

 

一方、「日東駒専」は、日大・東洋・駒沢・専修で、やはり同じくらいの偏差値です。

 

 

このように志望校を偏差値ごとにグループ化すると塾や予備校にとっては便利で、たとえば、「マーチ・英語」「日東駒専・数学」といった講座名にしているところもあります。

 

ただし、大学を階層化して名前をつけてしまうことが受験生に与える心理面の影響については、心療内科医として大きな問題を感じます。

 

 

F子さんは東洋大学が自宅からほど近く、キャンパスの雰囲気も学生たちのファッションのテイスト感も気に入っていました。

 

幸い、模擬テストを受けると合格の可能性が十分にあるB判定だったので、東洋大学を第一志望として受験勉強に取り組んでいたのです。

 

しかし、塾の受験指導で「日東駒専」は大丈夫だが「マーチ」は絶望的だと偏差値で階層化された価値観を押し付けられると、

 

プライドの高いF子さんは友だちが受験する「マーチ」より階層が低い大学を目指して勉強していることが心理的に受け入れることができなくなってしまいました。

 

そこに、持ち前の勉強嫌いが加わり、サボりたいという欲望が心の奥底で広がったのです。

 

 

こういう場合、深層心理が真っ先にターゲットにするのは、自己効力感です。

 

やろうと思ってもできないことにしてしまえば、勉強はしなくて済みます。

 

だから、脳に対して自分自身がほんの少しマジックをしかけるだけで、勉強できないスランプに見せかけることができてしまうのです。

 

F子さんもそうですが、特に幼児期に過保護に育てられている人は、調子が悪ければ親がなんとかしてくれると心のどこかで思ってしまう癖がついており、とりわけこうした心理に陥りやすいのです。

 

では、こうしたタイプのスランプから脱出するには、どうしたらいいのでしょうか。

 

その秘訣を解説しましょう・・・・

 

 光文社新書「受験うつ」第5章より

 

「受験うつ どう克服し、合格をつかむか」

光文社新書 

 

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<目次>
第1章 増える受験うつ
第2章「受験うつ」のメカニズム
第3章 受験うつは答案用紙に表れる
第4章 間違いだらけの治療法
第5章 親のひと言が子どもを受験うつにする
第6章 うつにならない勉強法
第7章 親のコーチングで結果は出せる

 

<内容紹介>
未成年のうつ病、しかも、ストレスが増える受験期に突然発症する人が急増している。
子どもと大人では症状が大きく異なるため、親も受験生本人も発症に気が付かない
ケースが多いのが実情である。
中学受験ではもちろんのこと、高校受験や大学受験で頻発しており、受験生専門外来の
私のクリニックにも、勉強が手につかなくなった多くの受験生が来院している。
受験期のうつで人生を狂わさないために、受験生本人が、家族ができることは何か?
また、脳機能から考えたストレス管理や効率の良い勉強法もまとめた、
うつ病の有無を問わず受験を控えたすべての方に必見の書。