✓ 脳に霧がかかったように思考力が働かなくなる「ブレインフォグ(Brain Fog)」が受験生の間で増加しており、入試に失敗する大きな要因になっています!
✓ ブレインフォグは新型コロナの後遺症だと思っている方が多いようですが、コロナの感染拡大より前から生じていたもので、感染歴がない人にも生じる症状です。
✓ 「受験生のブレインフォグ(Brain Fog in Exam Students)」に関する7項目のセルフチェックリストを掲載しました。スランプに陥った受験生は、該当する項目がないか自己診断してください。
✓ 人間の脳細胞を培養して人工的に作った脳オルガノイドによる実験で、ブレインフォグの病態生理の解明が一気に進んでいます。
✓ 最新の研究成果をもとに、ご自宅で簡単にできる6項目のブレインフォグの対策について解説しています。
成績が下がるなどスランプに陥った受験生は、「ブレインフォグ」になっていないか、今すぐ、次の症状についてセルフチェックをしてください。
【ブレインフォグの症状】
① 勉強の集中力が短期間のうちに低下してきた。
② 頭にモヤがかかったような感覚になった。
③ 記憶したはずの知識が、頻繁に思い出せなくなった。
④ 授業中に先生の話を聞いても理解できなくなった。
⑤ 以前はできていた問題が急に解けなくなった。
⑥ 学校や塾に行くのが、突然、面倒くさく感じるようになった。
⑦ 応用問題を解いていると、頭の中で考えがまとまらなくなってきた。
以上の7つの症状は、いずれもブレインフォグに典型的に見られるものです。
3項目以上が該当する場合は、ブレインフォグの可能性があるので注意が必要です。
また、たとえ該当するのが2項目以下であっても、いずれも受験生にとっては志望校への合格を勝ち取る上で致命的となる症状です。
この場合も、決して放置はしないでいただきたいです。
後ほどご紹介する6項目の対策を実践することをおすすめします。
受験生の成績が急落した場合、心療内科クリニックで詳しく検査を行うと、実は、頭に霧がかかったようになる「ブレインフォグ」が原因だったというケースが増加しています。
「受験生のブレインフォグ(Brain Fog in Exam Students)」は、スランプの大きな要因の一つだったわけです。
一般的なスランプについては、「自己効力感トレーニング勉強法」というメンタル医学の最新の研究を取り入れた勉強法なども効果的です。
これについては、「受験勉強のスランプ(Academic Slump)」の項目で詳しく解説していますので、あわせてご参照ください。
しかし、スランプの原因がブレインフォグの場合は、それに基づいた対策が必要です。
このページでは、誰でもご自宅で簡単に実践できる6項目の対策についてご紹介します。
ブレインフォグというと、皆さんは、新型コロナの後遺症だと思っている方が大半だと思います。
しかし、脳の働きを専門に扱う医師の間では、新型コロナよりも前から知られていた症状です。
実際、新型コロナの感染とは別の原因でブレインフォグを起こすケースは、決して少なくありません。
私自身も、受験生を専門に診療している心療内科医として、10年ほど前からテレビやラジオで「受験生のブレインフォグ(Brain Fog in Exam Students)」に関して警鐘を鳴らしてきました。
また、受験生のような若い世代では、新型コロナに感染しても無症状であったため、感染したという自覚がなく、ブレインフォグだけが生じるケースも少なくありません。
ですから、受験生の方も、そのご家族も、「コロナに感染したことはないから、ブレインフォグは大丈夫!」といった決めつけはしてはいけません。
逆に言えば、受験生がブレインフォグによってスランプに陥っている場合は、ブレインフォグさえ治せば、大幅な成績の向上が期待できるということを意味しています。
ですから、積極的にブレインフォグに関して対策に取り組むことは、志望校への合格を勝ち取るために、とても値打ちがあるわけです。
ブレインフォグに苦しむ人は、世界的に膨大な人数に拡大していますが、その具体的なメカニズムは、いままで長く解明に至っていませんでした。
しかし、最近の研究で、一気に解明が加速しています。
その原動力になっているのが、「脳オルガノイド( Brain Organoid)」という画期的で驚異的な研究手段です。
「脳オルガノイド( Brain Organoid)」とは、人間の幹細胞を使って人工的に作られた脳組織を指します。
最近の培養技術の進歩で、人間の脳の一部の特徴を模倣し、脳内の神経細胞の相互作用や機能を再現することができるようになったのです。
人間の脳は、ニューロン(神経細胞)やグリア細胞(ニューロンの活動を支えるニューロン以外の細胞)などから成り立っており、ニューロンとニューロンがシナプスによって結合して複雑な神経回路を形成することで、神経活動を行っています。
脳オルガノイドは、まだ一部ではありますが、その再現に成功したのです。
これまで、ブレインフォグの解明を妨げていた最大の要因は、生きた人間の脳を使って実験を行うということが、当然のことですが倫理的に許されないということでした。
この障害を乗り越えることができたのが、人間の脳を人工的に再現した脳オルガノイドなのです。
脳オルガノイドを使った研究によって、人間のブレインフォグに関して、次のような病態生理が明らかになってきました。
【神経回路の異常活動】
脳オルガノイドの研究では、ブレインフォグと神経回路の異常活動の関連が明らかにされました。
異常な神経活動は情報処理や記憶形成に影響を及ぼし、ブレインフォグの症状が引き起こされる可能性が示唆されています。
【シナプス形成と機能の異常】
シナプスは情報の伝達を担当しており、正常なシナプス形成や機能は正常な認知機能に欠かせません。
脳オルガノイドを通じて、ブレインフォグとシナプスの形成や機能の異常が関連を持っている可能性を示すデータが得られています。
今後、治療や予防へのアプローチがさらに進むことが期待されています。
【炎症反応の関与】
ブレインフォグが炎症反応と関連している可能性が示唆されています。
炎症反応は免疫応答の一環として起こる現象であり、神経炎症はブレインフォグの原因となる可能性があります。
脳オルガノイドを使った実験では、炎症性サイトカインの放出がブレインフォグの発生に関与していることが観察されました。
これにより、免疫応答の亢進や神経伝達物質のバランスの変化が引き起こされ、ブレインフォグの症状が生じる可能性が示唆されています。
脳オルガノイドの実験で解明されたように、①神経活動の異常、②シナプスの形成と機能の異常 、③炎症反応の関与がブレインフォグの発症と関連しており、これに関する対策が求められます。
ブレインフォグに対してご自宅でできる対策として、現段階で医学界から提唱されているのは、以下です。
ぜひ、ご家庭で実践していただければと思います。
【ご自宅でできるブレインフォグの対策】
① 睡眠の見直し
十分な睡眠を確保することは、ブレインフォグに限らず、脳のコンディション対策の基本中の基本ですが、落とし穴になっているのは、ブレインフォグによって必要な睡眠時間が以前と比べて変化しているということです。
ブレインフォグに罹患すると、睡眠によって脳を回復させる能力が低下してしまいます。
そのぶん、以前よりも長い睡眠時間が必要となるわけです。
ですから、睡眠時間を見直し、現時点で脳が求めている睡眠時間を確保すると、脳がしっかりと回復できるようになるため、認知機能や情報処理能力が元に戻るわけです
また、より質の高い睡眠を得るために、就寝前にリラックスする習慣も心掛けましょう。
② ストレス管理
受験生活はストレスの多い期間ですが、ブレインフォグによって脳内で炎症が生じているため、その影響で、よりストレスが高まりやすくなっています。
また、ストレス自体が脳の炎症を加速する作用を持っているため、この点からも、普段以上に適切なストレス管理が求められるわけです。
逆に、しっかりとストレスを抑えることができれば、脳内で炎症が生じにくくなるため、炎症性サイトカインの分泌量も低下します。
これによって、ブレインフォグの軽減につながるわけです。
ブレインフォグに陥った場合は、いったん、そのことを前提にした時間管理や計画立て、休息の取り方に改めるべきです。
これによって、ストレスを軽減できれば、ブレインフォグからの回復に役立ちます。
ブレインフォグから離脱できれば、その時点で、元の時間管理や計画立てに戻せばいいわけです。
ブレインフォグに陥った場合は、無理して勉強を頑張るよりも、回復させることを優先させ、早期にブレインフォグからの離脱を図ったほうが、結局は成績のアップの実現につながります。
焦って頑張るということが、結果的には受験の失敗に結びついてしまいます。
③ 適切な栄養と小刻みな水分摂取
脳の正常な機能を維持するには栄養と水分が必要です。
ブレインフォグに陥った場合は、これが特に重要となることがわかってきました。
具体的には、バランスの取れた食事を摂り、特に脳にとって重要な栄養素であるオメガ-3脂肪酸やビタミンB群を含む食品を積極的に摂取しましょう。
また、小刻みに少量の水分を頻繁に補給することによって、わずかな脱水も避けることが重要です。
実際、水分補給によって試験の点数がアップするという研究論文も発表されています。
④ 適度な運動
適度な運動は脳の血液循環を促進し、認知機能を改善する助けとなります。
定期的な運動やストレッチを取り入れることで、脳への酸素と栄養の供給が増え、ブレインフォグの軽減につながります。
運動が記憶力など脳の機能を高めることは、ブレインフォグに限らず、すべての受験生に成り立つことです。
しかし、ブレインフォグに陥った場合は、特に運動による脳への刺激が必要になるということがわかってきました。
ただし、運動を頑張りすぎると、それ自体がストレスになり、ブレインフォグを悪化させます。
運動は短い時間でいいので、適切なタイミングで複数回にわたって行い、その都度、休息を取り、疲労が蓄積しないように心掛けましょう。
運動は何をやっても、それなりに効果はありますが、特におすすめは縄跳びです。
これについては、「脳の機能を高める縄跳びの効果」のページで、詳しく解説していますので、こちらをご参照ください。
⑤ 集中力を高めるテクニック
集中力を高めるためのテクニックを取り入れることも効果的です。
ブレインフォグに陥ると、脳の機能が集中力を維持することに困難になる状態になっています。
そのため、より集中力が自然に高まりやすい脳の使い方を行う必要があるのです。
逆に、普段からこうした努力を実践していると、脳は集中力が高まりやすい状態に回復する効果が生じることも、研究結果として実証されています。
集中力を高める方法については、「受験勉強の集中力を脳科学で高める10の方法」のページをご参照ください。
このページでご紹介しているのは、ブレインフォグに限らず、どなたにも有効な方法です。
ただし、ご紹介している10の方法は、すべてブレインフォグの場合にも効果が期待できます。
安心して実践してください。
⑥ 心の健康のケア
受験生活では精神的なストレスが増加してしまい、これがブレインフォグを悪化させます。
心の健康を保つために、自己ケア、心理的ケアが重要です。
こうした効果が研究で実証されている「バタフライハグ(Butterfly Hug)」というポーズを実践するのが特におすすめです。
こちらについては、「トラウマ・心の傷を癒やすバタフライハグ」のページをご参照ください。
現在、ブレインフォグに対する治療として最も効果を上げているのは認知行動療法です。
ただし、受験生の場合は、一般的な認知行動療法は時間がかかるため、勉強時間が削減されるという、合格のためには致命的な欠点をもっています。
そこで私のクリニックでは、受験勉強そのもので認知行動療法を行う取り組みを行っています。
これが、「受験生に特化した認知行動療法」なのです。
「受験生に特化した認知行動療法」の長所は、単なる治療にとどまらず、解答能力を高めることで、試験でも得点アップにダイレクトに役立つということです。
つまり、病気の治療と受験勉強を、車の両輪のように同時に行うことができるのです。
また、病気の症状としてのブレインフォグではなくても、試験中はストレスが高まるため、ブレインフォグに類似した症状が現れます。
こうした対策にも、「受験生に特化した認知行動療法」は大きな力を発揮します。
弊院では、2020年10月より、これまでの診療プログラムを一部見直し、「5つの特別診療」をスタートいたしました。
その中の「①集中力特別診療」の中で、光トポグラフィー検査のデータなどを見極めた上で、脳の状態に最も適合した「受験生に特化した認知行動療法」を行い、入試本番での集中力アップと得点力アップを図っています。
冒頭のセルフチェックで該当する症状が見つかった場合は、ぜひ、こちらをお受けいただくことをおすすめします。
見落としてはいけないのは、受験生に限っていえば、ブレインフォグの症状が現れた場合、受験期のうつ症状、「受験うつ」を併発していることが多いのです。
一般的には、ブレインフォグの方の7人に1人の割合で、うつ病を併発されています。
しかし、受験生に限れば、この割合はもっと多いと考えるべきです。
さらに、合格を勝ち取るために本当の意味で問題になるのは、「受験うつ」のほうかもしれません。
その症状の一つとして、ブレインフォグに見られる症状が出ているケースも少なくないのです。
症状だけを見てブレインフォグだと決めつけるのではなく、その背後に「受験うつ」が潜んでいないか検査が必要です。
ブレインフォグの症状が「受験うつ」のSOSサインとなっていることが多く、志望校への合格を勝ち取るためには、このことが極めて重要なのです。
そこで本郷赤門前クリニックでは、2018年より、受験強迫性障害の方も「磁気刺激治療(受験うつ)早期合格コース」の診療プログラムの中に組み込みました。
これにより、志望校合格への高い実績をたたきだすことに成功しています。
参照した文献リスト
① Maidan, I., Bernad-Elazari, H., Gazit, E., Mirelman, A., Hausdorff, J., & Giladi, N. (2015). Increased Activation of the Frontal Lobe is associated with Freezing of Gait in Patients with Parkinson's disease: an fNIRS study (P6.074). Neurology.
② Grenier, K., Kao, J., & Diamandis, P. (2019). Three-dimensional modeling of human neurodegeneration: brain organoids coming of age. Molecular Psychiatry.
③ Hattori, N. (2014). Cerebral organoids model human brain development and microcephaly. Movement Disorders.
④ Yakoub, A. (2019). Cerebral organoids exhibit mature neurons and astrocytes and recapitulate electrophysiological activity of the human brain. Neural Regeneration Research.
⑤ Sartore, R., Cardoso, S., Lages, Y., Paraguassu, J., Stelling, M., Costa, R., Guimarães, M., Perez, C., & Rehen, S. (2017). Trace elements during primordial plexiform network formation in human cerebral organoids. PeerJ.
⑥ Araújo, V., Oliveira, I., Freitas, L., & Santos, J. (2021). “Brain fog” in the post-acute phase of Covid-19. São Paulo Medical Journal.Araújo, V., Oliveira, I., Freitas, L., & Santos, J. (2021). “Brain fog” in the post-acute phase of Covid-19. São Paulo Medical Journal.
⑦ Monzel, A., Hemmer, K., Kaoma, T., Smits, L., Bolognin, S., Lucarelli, P., Rosety, I., Žagare, A., Antony, P., Nickels, S., Krueger, R., Azuaje, F., & Schwamborn, J. (2020). Machine learning-assisted neurotoxicity prediction in human midbrain organoids.. Parkinsonism & related disorders.
⑧ Sharf, T., Molen, T., Guzman, E., Glasauer, S., Luna, G., Cheng, Z., Audouard, M., Ranasinghe, K., Kudo, K., Nagarajan, S., Tovar, K., Petzold, L., Hansma, P., & Kosik, K. (2021). Intrinsic network activity in human brain organoids. SSRN Electronic Journal.
⑨ Samarasinghe, R., Miranda, O., Mitchell, S., Ferando, I., Watanabe, M., Buth, J., Kurdian, A., Golshani, P., Plath, K., Lowry, W., Parent, J., Módy, I., & Novitch, B. (2019). Identification of neural oscillations and epileptiform changes in human brain organoids. Nature Neuroscience.